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馨しき旋律 かぐわしきせんりつ (雪ノ藍)

1,296円(税96円)

型番 ISBN 978-4-904374-26-9
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目 次

*小説
馨しき旋律    3

注釈    130
*随筆
Stay Gold 〜金色のままで〜 133
あとがき    146
主な参考文献    151
桜櫓館について    152


試し読み♪
http://www.izumiya-p.com/media/1/utukusikisennritu/

−内容一部抜粋−

麓を下り終えた秋之真は立ち止まると、外套を脱ぎ出した。
そうやると、身も心も軽くなって嬉しかったのだ。そして、足どりも。
彼は、まっ直ぐ前を見つめ出した。
その頃。
“一目だけでもいい。彼とお逢いしたい”と想う女性がいた。
名は瀬谷百合子。
米処でもあり酒どころでもある秋田の、造り酒屋で杜氏として働いている父のもとに、
彼女は生を享けたのだった。
長女ではあるが蔵人として働く二人の兄がいる分、割と自由に伸びくと育てられた面もあった。

日本人形のように清楚な顔立ちが、さらに惹き立つ肌の色白さ。
珊瑚色の唇が愛らしい。肩に流れる美しい髪が、風で揺れていた。
(――秋之真さんに、今日もお逢い出来るかしら)
黒板塀にしたたり流れるようにかかる、仄かにほころんだ桜の蕾たちを、
百合子はほんわかと眺めては、彼のことを胸にときめかせていた。
 カラ カラ カラ
幾人かの書生たちが、大きな高下駄の歯音を鳴らしては、彼女とすれ違ってゆく。
時折、つい出てしまう溜め息の白さ。
書生のなかには、桜模様の中振袖に袴を穿いて装った可愛いい百合子の姿を、チラリと眺めてゆく者もいた。
しかし、当の本人はそんなことにはおかまいもせずに、少し緊張した面持ちで、
秋之真と逢えることのみを願っているのだった。
と、その時。
曲がり角を通って、こちらに向かって歩いてくる秋之真の姿が、百合子の瞳に飛び込んできたのである。
そして自分の傍を、いまにも通り過ぎようとするなか、慌てて百合子が挨拶をしようとした瞬間。
「おはよう」
その声に、彼女の心の臓はドキン……と熱く飛び跳ねてしまった。

・・・・・etc